濱野成秋

これは会心の作だ

とにかく、英語の勉強になる本である。口語というのは、常日頃から意思疎通するのに頻繁に用いる伝達手段だから、知れば知るほど役立つ。そうは思えど、日本は不利この上ない。国土は欧米諸国から遠く離れたアジアの一角だし、外国人としてアメリカ国内に住んでいるだけで自然と身に付くはずの口語には、いつまで経っても親しめない。悲しい。切ない。コンプレックスだらけ。

僕の場合、子供の頃に父親が進駐軍をたくさん呼んでダンスパーティをしょっちゅう自宅でやった関係で口語表現が飛び交い、そいつが役立って今日の仕事に繋がる。しかし外人教師の来る教会で学んだ高校時代やステークハウスで基地の外周に住んでいるGIとのやり取り以外、アメリカ行きまで、苦労の連続だった。だからこの本は会心の作である。買って毎日バッグの中に入れ、1時間といわず、暇さえあらば声出して覚えるとよい。

使い分けが大事です

日本語抜きの英語論文などは、工夫をすればそれなりに上達するけれども、口語語法はだめ。結局ACLSという、フルブライトより難関と言われた大学教師だけのテストに筆者は食いついてトップ当選。おかげでNY州立大の客員教授に。だがそこで自分が喋っていたのは、おそろしく丁寧で上品な正調英語だった。Would やcouldなど、仮定法がざらの表現である。気取らぬ会話がランチ会話というのが普通のはずだが、やはりProfessor Hamanoと普段から呼ばれていると、窮屈だが正調ばかりの英語を使う。Wannaなんで表現など使わないように、get in touch withというような表現も避けてmake contact with などと言ってみたりで、大人社会とはそういうものなのだった。

だから日本語でいえば「お金魚がお元気で水泳してらっしゃる」というような英語を真面目くさって話していたんだろう。これが外国人というものなのだ。

英語学習法の本を幾つ書いた

僕は英語学習本で研究社から「合格ラインシリーズ」と称して、単語、熟語、英文法の3点セットを出し、単語集はミリオンセラーだった。それはNY州立大でディベートをやったり、車を売るの売らないので揉めた時の弁護士の卵との電話での猛烈な論戦の果てに、大雪のなか、ダウンタウンへ行き、和解をして大いに語り合った、そんな想い出も綯い交ぜになって出した。忘れもしない僕が州立大バッファローの大学院でポストモダンのアメリカ文学を院生に教えていた年とほぼ同時期だが、Malamud, Barthelme, Fiedler, Brautigan, Vonnegut…数え上げれはきりがないほど沢山の作家たちとインタビューしており、研究社の『英語青年』に原語で連載。中公の月刊文芸誌『海』に発表していた。自分でも恐れ入るが、これが僕の英語人生だったが、口語表現を大分使ったかというと、さほどでもない。

学習書としてのこの本

「日米口語辞典」は、辞書として使うのではなく、学習書として使いたまえ。

そのやり方を伝授しよう、すべてQ&A方式で、「声だし」でやること。それもゆっくり考えているようではダメ。0.1秒以内で答えられるまで間髪を入れず英語を言う。大声を出せ。小声でもぞもぞ言っているようではモノにならない。見出し語だけやったのではだめ。例文がたくさんあるだろ、それをまず日本語を先に読んで、英語を自分で作る、声出し式でね。このQ&A即声方式は、僕が非常勤で教えていた一橋大でも、早稲田でも、生徒たちにしっかりトレーニングしたよ。受験勉強だけして来た学生を、たった1年で通訳が出来るように仕立て上げたわけだ。そういうことなら出来るだろう。

TPOをわきまえて使おう

著者の皆さん、編集部のみなさん、ご苦労さま。自分の長くて短かった人生とこの本の完結とを一緒にしては気の毒だが、僕は敗戦後の負けじ魂をもってアメリカでは朝鮮戦争の元軍人だった男を猛烈に議論して打ち負かした。つまりそういうのに使っていた表現がいっぱいあるから、君らTPOに気を付けて使いたまえ。今夜は呑みたい気分である。(京都外大客員教授)